不倫と恋

3. 不倫--男は新しいものを欲する

男と女は、人間族でいながら、相対した場所に立つ違う生き物である。
違う生き物だから、恋が芽生え、愛しあい、結婚もして子どもも生まれる。
違う同士の心は、活動する方向が90度ずれている。
女性は地下から天空へ向かう円の軌道を、男性は地上を回る円の軌道。
二つの円が交わったところが、恋の地点である。
ここで、男女は心も肉体も交わり、子どもが生まれる。
両者が一体になれるこの時点だけで、男女はお互いを理解しあう。
女も男も、恋を知らなければ、異性の心を理解できない。
両性は、いつもすぐそばにいるようでいて、実は遠い存在なのである。
だから恋多き人間は、人間への理解、特に異性を深く理解している。
学問では学べない異性の心は、恋の講座でしか学べない。
恋の講座で学ぶ女性と男性の違い。
女性は変身しながら、ひとりの自分で生きる強い生き物。
男性は、二人の自分で生きるから強い力を持つが、 一人になったら弱い生き物。
場所を与えられたら、そこを暖め居心地のよい空間を つくる特質を持つ女性に対して、
男性は、その場所から飛び出して 他の地から食糧を抱え戻る特質を持つ。

本質的能力の中で、女性にとって好ましくない男性の本質がある。
それは、常に新しいものを欲しがる男性の心。

男性は、所有物を一人の自分に預け、もう一人の自分が違う新しさを求める。
妻はこの本質を知った時から、不安な心を持ち始め、夫の行動に眼を光らせる。
夫は自分以外の女性に魅力を感じているのではないだろうか。
女性が常に嫉妬深く、疑り深いのは、この男の特質のせいなのだ。
男のその本質を、毒花女性は利用して自意識を満足させる。
不倫に至る男性の心は、彼女が妻より魅力的だからではなく、
妻より新しい存在だから、たったそれだけの理由なのだ。
だから不倫関係にいる既婚男性のほとんどは、相手の女性を愛していない。

ここに、生きる哲学を持たない既婚男性がいる。
目の前を、毒花女性が、魅力的な誘いの匂いを振りまきながら通り過ぎる。
フェロモンに引き寄せられる昆虫の雄さながらに、男性の心は乱れ始めた。
半分の自分に家庭を守らせ、あとの半分で新しいものをゲットしたい…男の心。
片方の男性の心は揺らいでいる。
人の道を外してはいけないと、片方の自分が叫ぶ。
片方の自分が、新しさの魅力に震え出した。
その前を、毒花女性が魅力的なほほ笑みを浮かべ、あ、行ってしまいそうだ。
ああ、もう駄目だ、心を抑制できない。
ままよ。 1回だけ、たった1回だけの付き合いにしよう。
それなら、誰にも妻にも気づかれずに、家庭を大切にする夫のままでいられる。

男女が性的関係を持つに至るきっかけは、それこそ万のパターンがあるだろう。
だから男女関係に発展させた直接の原因は、この際問題ではない。
すでに二者の心は引き合っていたのだから。
片手に家庭を持ち、もう片方の手で新しい魅力をゲットしてみたい。
チャレンジ精神と、失敗しても家庭があると思う安心感で、言葉は巧妙になる。
結婚生活で女性を良く理解しているから、心のくすぐり方も心得たものだ。

「愛する君となら、こんなに安らげるのに、妻といると心が疲れるだけだ」
「君は妻に比べて、素直で心がやさしくその上美しい、もう絶対に放さないよ」
「10年前に君に会えていたらなあ、そう思うだけでも残念で堪らないよ」

こんな言葉をふんだんに浴びせられた女性の心は、 何より欲しかった同性への優越感に浸れて、
深い満足を感じている。
私は、彼の妻よりもチャーミングで魅力的なのよ。
その上、彼をよく理解していているから、私達はお似合いのカップルだわ。
妻を見下し、蔑み、自分の優位性を信じて自信満々になれた、王妃様気分だ。

一方浅はかな不倫男の心はといえば。 やったぜ、彼女は新鮮だ、愚痴は言わないし従順だ、
俺もまだまだ行けるぞ。
新しいものを得て、大いに満足した男性は、気が済んですっきり爽快な気分。
う〜ん、楽しかったなあ。
これからしばらくは、良い夫に戻って妻の元へ帰る毎日を過ごすことにしよう。
ハントされたとも知らず、お気楽不倫男が有頂天でいられるのも暫くの間だけ。
無傷では戻れない暗く深い闇に沈んだことを、すぐに思い知ることになるのだ。
洞窟から顔を出して魅惑的に誘ったのは、毒性の強い毒花だったのだから。

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