心のトンネル

時間の川を抜ける道

ねえ、お月さまがトンネルだって知ってた?
へっ、本当に知らなかったの? お月さまのトンネルを抜けたら、凄〜く面白い世界へ行けるのよ。
どんな世界なのかって、う〜ん説明は無理ね 説明したって信じて貰えないと思うもの。
だから言わない。
意地悪なんかしてないのよ。 本当はね、わかってもらえる様な言い方ができる自信がないの。
じゃあ、今、トンネル抜けてみる?そうする? トンネルの抜け方を言うから、その通りにしてね。
手をつないで引っ張ってあげられないのよ、このトンネルは。
いつもトンネルは、独りでしか通れないの。 だから、あっちの世界で一緒に歩きましょう。
えっ、怖いの?
帰ってこられるに決まっているじゃあないの、今私はここにいるもの。
もう何回も何回も行って、帰ってきてるのよ。 だから怖くなんかない。
今思い切ったら、後はいつでも面白い世界へ独りで行けるよ。
凄いでしょう。 でも、怖いんなら、今日は止めておきましょう。
代わりに、もっと凄いこと教えてあげようかな、どうしようかな ケチしてるんじゃあないけど・・・
じゃあ言ってしまうね。
それはね、トンネルって月だけじゃあないってことなの。
色々な世界へ行けるトンネルが、あそこにもあるし、そこにもあるのよ。
そう、そこに白い花があるでしょう。 これもトンネルなの。
でもね、このトンネルを通って行けるのは、あなただけ。
私は、あなたと同じ世界へは行かれないの。
どうしてって。
それはね、白い花のトンネルは、思う人の心へ抜けるからなの。
ね、わかったでしょう、一緒に行けない意味が。 あなたと私と、心の中で思う人は別々ですもの。
そうでしょう。
そしてね、もう亡くなってしまった人の心へも行けるトンネルだってあるのよ。
でも、そこの歩き方は難しいから教えられないかもしれない。
ん、ん? 今気がついたけれど、もしかして、鏡がトンネルだってこと知らなかった?
鏡を抜けてあなたは、前の世界へいっているのに。
そう、前って昨日とか一昨日とか、もっと前とか。
でも、気がついてなかったのなら、せいぜい行けたとしても、昨日までかな。
鏡で、今の自分は絶対に見えないことも、もしかしたら知らなかった?
そうだったの、ふ〜ん。 じゃあ、時間の川も見たことなかったよね。
そうか時間より早く歩かなければ、時間の川は見えないものね。
時間は光の速さで流れているから、それ以上の早さでないと見えないのよ。
時間はどんな川なのかって? それは、キラキラ、ピカピカ光の川よ。
今は、あなたと私は、その川のこちら側にいるからそれが見えないの。
だからトンネルは、全部時間の川を抜ける道ってことになる。
そんな無理言わないで。
時間の川は、どこかのトンネルを抜けないと見えません。
つまり、トンネルを抜けるには、光より早く走ること。 そう、心がね。
心が、すごい速さで走れるってことも知らなかったんだ。
私たちって、直ぐそばにいたのに、ずいぶん遠いところにいたのね。

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